オホーツク鰊の価値を追究
一般社団法人楽水会メールマガジン第189号(2025年3月3日号)寄稿
株式会社オホーツク活魚 代表取締役 藤本信治(36漁生)
古(いにしえ)から北海道に生活していた人々にとって重要な糧であった鰊(にしん)を題材に、産地での取組みや魚食への取組みをオホーツク海から発信したいと思います。
皆さんは、新鮮な美味しい鰊を食べたことがありますか?
北海道の日本海側が産地として有名な鰊ですが、近年はオホーツク海の枝幸地区でも漁獲量が増えています。私たち北海道民にとっては馴染みがあり、旬の鮮度がいい鰊が手に入ると、刺身にしたり、酢〆にしたり、塩焼き・煮付けで食べるのが春の楽しみです。

春のニシン・ 秋のサンマ
株式会社オホーツク活魚では、オホーツク海で水揚げされた鰊の拡販に挑戦しています。
一つは、旬の春鰊を鮮度保持能力の高い『パーシャル窒素氷』(パーシャル窒素氷の活用)に埋めて鮮度保持したまま、パーシャル鮮魚として出荷することです。
小売り向けにも、当社直営のネットショップ『オホーツク活魚ネット』での販売を昨年から行っています(https://okhotskkatugyo.net/item-detail/1580873:パーシャル鮮にしん)。予算に合わせて1~8kgまで選べますので、必要な分だけ購入できます日本国民が一般的に秋にサンマ(秋刀魚)を食べるように、春には春告魚である旬のニシン(鰊)を食べてもらいたいのです。
産地において新鮮な魚を高鮮度・高品質状態で下ごしらえ・冷凍する食材創り
もう一つは、鮮度保持した新鮮な鰊(魚)を高鮮度凍結して食材にする取組みです。当社が掲げるファイブF(FreshFish・FreshFrozenFood)事業の一環で、冷凍食材としての鰊に価値を見出したいと考えています。その際に併せて取組みたいのがレンジ調理容器の利用です。最近は様々なタイプのレンジ調理容器が出ていますが、この容器を使った調理の最大の利点は、冷凍素材の魚を冷凍状態から一気に調理できることです。冷凍素材を解凍せずに調理できることは、これから重要な要素だと考えます。
魚は骨があるのがあたりまえ(Herring-Boning:鰊の骨抜きを楽しむ)
鰊は小骨が多いことで嫌われる面がありますが、身が柔らかい鰊を支えているのがこの小骨であり、鰊が生きていく上で必要なように備わっているものです。そのことに思いを馳せると、この骨がいとおしくも感じます。鰊の小骨は太い背骨から生えており、鮮度の良い鰊では身の表面から骨に沿って箸を使って切れ目を入れ、太い骨を頭の方から持ち上げると綺麗に小骨が付いて抜けます。食育の観点からも魚は骨があるのが当たり前で、上手に骨と身を分けて食べるすべを子供達に伝えたいと思います。ちなみに鰊の骨に似ていることから名づけられたヘリンボーン(Herring-Bone)模様は世界中で愛されていることからも、鰊が日本のみならず世界中で利用されてきたことが垣間見えます。
脂鰊(あぶらにしん)
北海道オホーツク海では、3~4月に子持ちの春鰊を刺し網漁で漁獲し、5~6月産卵後に摂餌回遊する脂鰊(あぶらにしん)を定置網で漁獲します。また、枝幸港に1隻残存しているかけ廻し式の底曳き船でも漁獲します。当社では、身に脂が乗ったこの鰊を、鮮度が良い状態で凍結することによって、様々な鰊製品にしています。
https://okhotskkatugyo.net/item-detail/1512492(〆にしん)
https://okhotskkatugyo.net/item-detail/1303824(にしん漬け魚)
資源増大への取り組み
私の学生時代に所属していた漁法学講座教授であり、俳人でもあった井上 実(まこと)先生の著書によると、北海道では全盛期には百万石(75万トン)もの鰊が水揚げされており、日本の漁獲高の1/3を占めていたとあります。それほど日本にとって鰊は重要な水産資源でした。それが1955年以降には漁獲量が顕著に減り、パタリと獲れなくなって資源の枯渇が心配されました。その鰊資源が北海道水産試験場の方々のリードによる「資源増大プロジェクト」で着実な成果を見せ始め、北海道日本海沿岸のみならず、ここオホーツク枝幸沿岸でも群来(海面が鰊の自然産卵で白くなる現象)が見られるようになり、資源復活の兆しがあります。『日本海ニシン増大プロジェクト研究』の代表として携わられた川真田憲治先輩(18増大)は、「漁業者と研究者・行政の担当者が一体となって自主的資源管理を実践していることが、豊漁期を延長させ高い水準の漁獲を維持させている」とおっしゃっています。まさに各地域の水産資源の維持・増大を考えたときに大切な考え方だと、共感します。
原料供給基地としての産地の役割
近年、2024年問題など物流が抱える状況の厳しさが増しています。
北海道の北部に位置する産地では、どうしても物流のコスト高・輸送の脆弱化が顕著です。特に鰊のような鮮度が落ちやすく、一時期に大量に水揚げされる魚は、いくら漁業者が鮮度保持して水揚げしても生鮮で流通するにはコストが合わなかったり、物量を制限されることがあります。実際親会社の定置網で6月のある日に10トン程漁獲された鰊は受け取り手がなく、海に放すしかなかったことがありました。地場の魚を安定して円滑に処理するためには、産地において鮮度の良いうちに凍結して、数量がまとまった状態で原料供給することが必要であると考えました。当社では2023年に急速凍結庫の建設を行い、マイナス40度で6トン程度の魚を凍結させる設備を整えました。昨年から枝幸港で水揚げされた鰊を雄・雌選別して凍結させていますが、数の子の原料が取れる雌は評価されますが、現状白子を抱いた雄鰊は評価されません。当社では、この鮮度抜群で大型の雄鰊を1尾ずつ使えるように工夫して15kgで段ボール凍結しています。この雄鰊を大事に売りたいと考えます。
鰊のへしこ
同窓のご縁があり福井県小浜市で鯖のへしこづくりをしている『民宿かどの』さんをご紹介いただきました。へしこ職人の角野さんが作る「鯖へしこ」とへしこからつくる「なれずし」が、とても美味しく感動しました。そこで北海道の鰊をへしこにできませんか?とご相談したところ、2年に亘って試作品を作っていただくことが出来ました。北海道にも「糠にしん」はありますが、福井県の風土で1年掛けて仕込まれた「鰊へしこ」は発酵熟成が進み、深い味わいとなっていました。特に私が驚いたのが、漬けこまれた数の子がカラスミの様な味がしたことです。身の方もほんの一切れでご飯やお酒がすすむ味で、いつかコラボして商品化できればと思っています。
この先へ
日本全国でこれまで当たり前に獲れていた多くの水産資源の減少が取り沙汰される中、北海道で鰊資源が持ち直していることを大事にしなければならないと思っています。当社が掲げる企業理念の第一に、『水産のプロフェッショナルとして資源を大切にし、魚介類の価値を最大限引き出す』と謳っています。温暖化の影響や海況の変化で水産資源の状況も変化していますが、これからは特に前浜の資源と向き合い、漁獲された魚介類を無駄にせず、有効に活用することが求められると思っています。先日、札幌の寿司屋さんで出てきた鰊の握りずしにとても感心しました。小骨を丁寧に抜いてから細切りにした身を上手にのせて握ってあり、三升漬け(さんしょうづけ)が添えられていていました。鰊の価値を高める真髄を見た気がしました。














